古都、平城京。この都の歴史を見守ってきた正倉院に、「鏨(たがね)」という彫金工具で彫刻を施された、数々の宝物が眠っています。
現在では広く「和彫り」と呼ばれるその彫金技法は、千年以上も昔から寺社仏閣や芸術品を彩り、現代まで脈々と受け継がれてきました。
彫刻は硬い金属に刻み込まれるにもかかわらず、その線は単純な直線ばかりではなく、時にゆらめき、時にうねり、彫師の息遣いを感じるほどに繊細です。彫り入れられた輝きと陰影は平板な金属に奥行きを作り、まるで生きているかのような豊かな表情を浮かべます。
悠久の時を超え、いつまでも輝き続ける鏨彫りには、私達日本人が知らなかったいくつもの秘法が隠されています。
小さな棒状の彫刻刀「鏨」を持ち、小槌でコツコツと叩きながら彫刻する鏨彫りは、叩いた数と同じだけの輝く面とともに、金属に華やかな模様を描き出します。
ジュエリーへの彫刻には、ハワイアンジュエリーや欧州の彫りに代表される西洋の「洋彫り」と、それに対しての「和彫り」があります。彫刻刀を手に持ち、利き手でぐいぐいと押して彫り入れる「洋彫り」は、大きな面を一度にえぐり取るため、ダイナミックで鈍い輝きの模様となります。一方、「和彫り」は小槌で叩く手法により、叩く数だけ面が生まれます。微細な彫刻面の集合で描かれる模様は、まるでミラーボールが輝くような繊細な光を放つのです。
真剣のように研ぎ澄まされた鏨が生み出す、鋭い面と豊かな深浅。模様だけでなく、陰影までもが一つになった豊かな表現力です。
一本の筆が書家の技量を素直にあらわすように、鏨彫りの美しさもまた、彫師の技量によって大きく左右されます。
様々な工芸品に使用される鏨彫りの中でも、指輪への彫刻は極めて高い技量が要求されるものです。幅わずか6mmに満たない、大きく湾曲した貴金属への彫刻は、鏨彫りの中でも他に例がありません。
貴金属は素材によってかなり特性が違い、粘り気のあるプラチナと、張りのある硬さのピンクゴールドでは、同じ模様を彫り入れることさえも容易ではありません。また、全周がつながった模様は、指のサイズごとに変わる円周によって模様の数と長さを調整しなければならない、途方も無い作業です。
鏨を導く手と小槌を叩く手の両方を駆使する鏨彫りの習得には、数十年もの長い修行が必要です。鏨の磨き上げだけでも一朝一夕には身につけることができません。継承が難しい、まさに失われつつある技なのです。豊かな表現力を持つ技法だけに、彫師の技量が未熟であれば素直に未熟な彫りとなり、優秀であれば素直に素晴らしい彫りとなる。それが鏨彫りの難しさです。
MIORINGの鏨彫りは全て、認定された「伝統工芸士」の手によって丁寧に彫刻されます。江戸時代から系譜が続くMIORINGの彫師は、伝統を受け継ぎ、長い修業を経た正当派の工芸士。
ブライダルリングの枠を超えた、ジュエリーとして、伝統工芸品として一流の彫刻リングがその指に輝きます。
鋭く彫り入れられた彫刻は傷がつきにくく、周囲が曇ってもキラキラと輝きます。使うほどにコントラストが生まれ、浮かび上がるような味わいが出ます。
入浴や炊事、日常の着用にも強く、金属そのものが削れてしまうような環境でなければ、数十年にわたってしっかりとした存在感を保ちます。また、日常のケアは着用したまま手を洗うだけで、しっかりと汚れが落ちます。
万一、超長期の連用やアクシデントにより彫刻が薄れてしまった場合でも、同じ模様を彫り直す「上彫り(うわぼり)」を施すことで、新品のような輝きに戻すことができます。