赤銅

夜明け前の海、薄明。水平線は黒から青、紫、赤へじわりと色を変えてゆく。漆黒の闇を切り裂くような暁が近づき、空は赤く染まる。最も清廉で神秘的な時間。

古く日本に、まるで夜が明けていくように色を変える金属素材がありました。その美しさ、強さは人々を魅了し、刀の鍔(つば)や根付(ねつけ)、簪(かんざし)をはじめとした武具や装飾品に使われました。しかし時代の移り変わりは荒波のように激しく、武具が消え、装飾品が姿を変えるのと同時に、その素材は人々の心から消え、製法も忘れられてしまいました。
MIORINGではその美しさに注目して、工房に伝わる古い文献を紐解き、試行錯誤を経てブライダルリングとして現代に蘇らせました。

よみがえった美しい金属素材「赤銅」。赤い銅と書いて「しゃくどう」と読むこの素材は、刻々と変化していく美しい色が特徴です。銅と純金を独自の割合で配合し、「黒色煮上げ」という処理を施すことで、奥深い色と変色性をもつ金属に変わります。
煮上げ処理を施した赤銅の色はまるで「濡烏(ぬれがらす)」色。女性の美しい黒髪をあらわす名のとおり、黒い真珠のような紫や青が絡み合った複雑な美しさです。
「黒色煮上げ」によって自ら皮膜を貼る性質を身につけた赤銅は、酸やアルカリと反応して色を変えるようになります。着用すると数日から一週間程度の期間で、鮮やかな赤茶色へと色を変えます。この素材の最大の特徴は、ただ色を変えるだけでなく、赤茶色に変わった色がまた黒色にもどる性質です。金属自らがふたたび酸化皮膜を張り、数日から数週間をかけて黒色に戻っていきます。このため、いつも新鮮な色を見せるのです。
一般的な宝飾と異なる伝統的な素材を指輪とするために、工房では数々の問題に直面します。「緻密な配合」、「厳格な黒色煮上げ」、そして「鍛造でしか加工できない壁」。
塊を叩き、曲げて加工する「鍛造製法」だけで製作されるMIORINGの赤銅は、クラフトマンの手によって鍛え上げられながら成形されます。自由鍛造の指輪を作るためには1ヶ所のロー付け(溶接)が欠かせませんが、このロー付けが赤銅の色の変化に問題を起こし、溶接部分の周辺に色が変わらない部分を作ってしまいます。

この問題を解決して美しく色の変わるリングとするためには、赤銅を板から削りだし、継ぎ目のない輪にしなければなりません。分厚い赤銅板を作り、それを手作業のみで切り抜いて指輪とする気が遠くなるような作業。この作業を経てはじめて、美しく色の変わる指輪の基本が完成します。
形作られた指輪は最後に「黒色煮上げ」に進みます。工房に伝わる古い文献や、歴史ある彫金工房の資料を紐解いた過去の叡智。これを現代の化学でひとつひとつ解釈しなおすことで、美しい素材が完成に近づきます。
リング表面の油分を完全に取り去り、限られた温度に保たれた溶液で煮込むこと数分。煮上げ液から引き上げられた先に、とうとう「濡烏(ぬれがらす)」色と変色性を備えた素材との出会いが待っています。数時間から数日で酸やアルカリ、摩擦に反応して色を変え、そしてまた黒へと戻るMIORINGの赤銅の完成です。もちろん、毎日の着用への耐久性やアレルギーへの対策もしっかりと考慮したものです。
人は様々なものに「美しさ」を感じます。絶対的に変わらない美しさがある一方で、日本人は昔から「変わりゆくことの美しさ」を愛してきました。諸行無常、咲いては散る桜と、移り変わる四季。変わっていくことは、何かを失ってしまうことではありません。
夜が明け、そしてまた日が沈む。そんな毎日をふたりとともに繰り返す、美しく強い素材がここに誕生しました。
赤銅黒色煮上げを使ったMIORING
  • 黎黎
  • 暁水暁水